TELが入っていました。
見ず知らずの冒険者からのTEL。
要領を得ない、しかし困っていることだけはひしひしと伝わるそのTELは、容易に駆け出しの冒険者からのものであることがわかりました。
「近場での蘇生依頼なら駆けつけよう」
私はEPICを握り込みます。
すでにその時の私は、秘密結社からの依頼を受けてしまっており、仲間の半数はダンジョンの前に到達しているタイミング。
残念ながら、近場での蘇生依頼くらいしかこなす時間がありませんでした。
かくしてその思いは果たせません。
彼からのTELは、遠くエバーフロストからだったのです。
しかも死体はどこにあるかわからず、まずはその捜索からしなければならないとのこと。
私の蘇生魔法も、彼の死体がなければ無力です。
私は「NECやBRDに死体探しの魔法があること」、「後で駆けつけるから死体だけは残しておくこと」を伝え、仲間の待つダンジョンに足を向けたのでした。
いつにも増してスムーズに結社の依頼をこなした私。
すぐさま彼にTELを入れました。
蘇生を受けられたかどうか、ダンジョンにいる間も気になって仕方がありませんでしたから。
意外にも彼の声は、さばさばしたものでした。
私は驚きを隠せませんでしたが。
彼の死体は氷の下でした。
そして彼にはそれを回収する術がありませんでした。
彼は自らの死体を、その装備と共にエバーフロストの分厚い氷の下に埋葬することを決めたとのことでした。
そしてそのまま、冒険者を引退すると。
「いろいろ教えてもらったのにすみません」
彼はそう言いましたが、私にその決断を否定する権利などありません。
「では、またどこかで」
「えぇ、またどこかで」
互いにそう言葉を交わすと、TELはそれきり途切れました。
出会うことすらなかったふたりは、そうしてそのひとときの邂逅に幕を下ろしたのでした。
あの時。
私が彼の元に駆けつけていれば。
彼はまだその剣を振るっていたのでしょうか。
エバーフロストの氷河は、その答えもまた、彼の亡骸と共に閉じこめてしまいました。
永遠に。
その氷の下に。
<了>