古強者は墜ちた

 柔道の谷選手が引退とのことで。
 今までお疲れ様でした。
 
 しかしこの引退に対して、評判はイマイチみたいですね。
 「議員になる前に辞めればよかったのに」とか「晩節を穢した」とか。
 私はこういった形もまた、アリなんじゃないかと思いますが。
 
 私がベテランを愛して止まないのは、彼等が敗者だからです。
 スポーツにおいて、ベテランと言うのは必ず敗れる運命にあります。
 年齢と共に訪れる衰えと若き力の台頭により、積み重ねてきた栄光は必ず地に落ちる訳です。
 まぁ、落ちきる前に辞めちゃう人も多いですし、その方が世間的には評価が高いみたいですけどね。
 
 けど私は、それでは美しさを感じません。
 そこで地に落ちる前に、潔く退くのは簡単。
 でもそれでは、そのスポーツは後に続かないと思うんですよ。
 
 ベテランは最後の最後まで、若き力を叩き伏せる壁であり続けべきだと思うのです。
 そして最後はボロ雑巾のように敗れ去るべきだと思うのです。
 壁であり続ける時間を一瞬でも長くするためなら、ボロボロの敗北を一瞬でも遅らせるためなら、どんなに往生際が悪いと罵られようとも、泥にまみれて薄汚くなろうとも、才能の最後の一滴を絞り出すまで泥臭くあがき続ける。あがいてあがいて足掻きまくって、これ以上もう足掻けないところまで追い込まれてそこで、壮絶に敗れるべきだと思うのですよ。
 
 その姿は、そのまま見るとカッコ悪いかも知れない。
 
 けどその姿がカッコ悪ければ悪いほど、無様なら無様なほど、その後に続く若手は輝きを増すんだと思うのですね。
 ぐしゃぐしゃに潰れるベテランが踏み台となって、反動で若手をさらなる高みに押し上げる。
 そうやって登場した新たなヒーローが、輝きを増したヒーローが頂点に立つことで、彼等のスポーツそのものを明るい未来へと導いていくと思うのですよ。
 
 泥臭く敗れるベテランの姿こそ、スポーツの歴史を絶やさぬための熾火なのだと。
 
 なので個人的には、試合で言い訳できないくらいボロボロに敗れてから引退して欲しかったです。
 わかりやすい形で次世代にバトンを引き継いで欲しかった。
 けど、こういった形ででも栄光の柔道人生を一敗地にまみれさせたのは、谷選手自身には気の毒ではありますが、次に繋がるんじゃないかな〜と思っています。
 
 日本柔道の一時代が、誰の目にもわかるほどグダグダな状態で終わりを告げた。
 けどこの暗雲を吹き飛ばすだけの実力ある次世代が、日本にはたくさんいる。
 暗雲を吹き飛ばしたとき、谷選手が輝かせた時代以上の輝きが待っているんじゃないかと。
 
 強大な壁が、ようやく崩れました。ボロボロに崩れ、瓦礫と化しました。
 ベテランはちょっと変則的な形ながらも約束を果たしたのです。
 ならば次は若手が約束を守る番。
 いまこそ新しい時代が訪れる瞬間です。
 
 次の時代を築く選手の皆様、谷選手を踏み台にさらなる高みを。
 一介のスポーツ好きは、日本柔道の新時代到来を楽しみにしております。