可及的速やかに逃げろ

 満員の通勤電車。
 斜め前に立つ女子高生が、猛スピードでスマフォに指を滑らす。
 見るともなしに目に入る画面。
 「うしろのおじさん、クシャミやめて欲しいんだけどー」
 メールか、ツイッターか。
 女子高生の真後ろに立つサラリーマンへの不満が、次々と送信される。
 「ぜったいおじさんの口が髪の毛にかかってるよー」
 「せっかくシャワー浴びてきたのに」
 おじさんも風邪気味なら、マスクくらいつけろ。
 その時、扉が開き人が動く。
 雪崩込む新たな乗客に押され、なぜかその女子高生が私の前に。
 頭の中で警報が鳴る。
 触らぬ女子高生に祟り無し。
 私は人の流れを巧みに泳ぎ、逃亡を図った。